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第2回 デジタル信号処理(DSP)@台形整形

 放射線計測におけるデジタル信号処理(DSP)の台形整形についてアナログのガウス整形と比較しながらお話ししたいと思います。


Fig. 1

 一般的にアナログシステムは検出器に放射線がぶつかり、相互作用によって発生した電荷をチャージセンシティブアンプで電圧変換をされ、アンプ(スペクトロスコピアンプとかリニアアンプとも呼ぶ)によってガウス整形されます。ガウス整形されたパルスをMCAに接続してパルス波高をA/D変換することにより放射線スペクトルになります。

 アンプで採用しているのはS/N比が良いとされるガウス整形が一般的ですが、各メーカー若干仕様の違いがあり全くの同一ではありません。理想のガウス整形は積分が∞回必要で現実的には実現不可能です。 Fig.1 HPGe半導体検出器で使われるアンプは特にスペクトロスコピアンプと呼ばれ、出来る限り左右対称で切れの良い(テールを引かない)工夫がされております。

 プリアンプの信号の立ち上がりは、電荷が積分されていく様となりますが、鋭く短く立ち上がり(数十ns〜数百ns)、溜まりきった電荷を放電するために抵抗によって指数関数的な尾をもって減衰します。このような指数減衰パルスに対するガウス整形のS/N比は1.12(実現不可能なカプス整形が1)ですが、積分が∞回必要なため実現は不可能です。

 スペクトロスコピアンプは実現可能な範囲で1回微分の4回積分にQを調整したアクティブフィルタを使用しており、1.14までS/N比を改善させております。Fig.1 なお、Qの調整をしない1回微分の2回積分は1.22、1回微分の4回積分は1.17になります。時定数を調整することでパルス幅を広げたり狭めたりしてS/N比を向上させたり、計数率を向上させたりして目的に合った設定で使用します。実際の電荷の発生からガウス整形のピーク値に到達する時間は2.2〜2.4×時定数かかります。

 対してDSPはアナログで言うところのアンプとMCA機能が備わっております。DSPでは台形整形が主に利用されます。これは三角整形の改良版でありS/N比は1.08になります。Risetimeはランプアップしてピークトップまでに到達するまでの時間に相当します。アナログの時定数と比べると、Risetime = 2.2〜2.4×アナログ時定数となります。これによりピークに達する時間はアナログもDSPもほぼ同じになります。

 三角整形はピークトップが鋭角なので緩やかなガウス整形より弾道欠損の影響を受けやすいです。特に同軸型HPGe半導体検出器は信号の立ち上がりがバラついたり、極端に遅い信号が含まれます。台形整形の上底(flattop)を追加することで、分解能が劣化するのを緩和することができます。

 上底(flattop)の時間は同軸型HPGe半導体検出器は0.6〜0.8μs、SDDのような低エネルギープレナ型の場合、0.1〜0.3μsと短くできます。シンチレーション検出器の場合は、殆ど立ち上がりは変化しませんので0.1〜0.3μsと短くできます。



 Eq.(1)はv(n)に指数減衰パルスを入力すると台形整形されたパルスがs(n)より得られる漸化式です。

 この漸化式はFPGAを用いたデジタル信号処理として相性がよく、v(n)(A/D変換されたデータ)をこのロジックに接続することで、毎クロックごとにs(n)(台形整形)が出力されます。例えば、100MHzのA/D変換を行い、100MHzでFPGAを動かすことができれば、ほんの僅かにディレイがあるだけでリアルタイムに台形整形が可能になります。

 シンプルにFPGAに搭載可能なアルゴリズムとして広く採用されております。

 この漸化式の導出は、関数gを平行移動しながら関数fに重ね足し合わせる畳み込み積分によって生成されております。ここでは関数fは指数減衰パルスとなります。連続関数g, fの畳み込みは以下で定義されます。



 対象は離散信号ですので
 

 Digital synthesis of pulse shapes in real time for high resolution radiation spectroscopy という論文に詳しく書かれていますのでご参考いただければと思います。


Fig. 2 台形整形とガウス整形の比較

 台形整形とガウス整形の性能を比較をしてみます。

 Fig.2 はプリアンプ(青)の信号に対するアンプの時定数6μs(緑)、DSPのRisetime14μs(紫)の波形です。台形整形はガウス整形に比べてベースラインに戻るのが早いです。これは、次のパルスを正確に測る準備が台形整形の方が早くできるという事であり、出力計数率は台形整形が上回ります。


Fig. 3 DSP15μsとAMP6μsの比較

 予想通り計数率は台形整形の方が、上回ります。


Fig. 4 分解能の変化

 分解能は低計数率では殆ど同じですね。計数率が上がっていくほど差が広がります。
Fig.3、Fig.4 よりDSPは低計数率ではアナログシステムと互角、高計数率の時はより真価を発揮するということになります。

 DSPの性能は台形整形の漸化式だけでは決まりません。

 一つ目はA/D変換です。

 プリアンプの立ち上がり時間数十〜数百nsを精度良くサンプリングするためには、50M〜100Mspsの変換周波数が要求されますし、16kチャネルでスペクトル分析をするのであれば14〜16bitの分解能は必要です。

 スペクトルの定性分析では、ピーク位置のリニアリティはとても重要ですので、積分非直線性ができるだけ良好である必要があります。また統計誤差の少ない滑らかなスペクトルを得るために微分非直線性においても良好なことが大変重要です。

 もう一つは、台形整形後に行うBLR (Base Line Restorer)です。

 フィードバックをかけながらベースラインの変動を0.01%未満に押さえ込まなければなりません。計数率が上昇してもピタっとベースラインを維持する堅牢なアルゴリズムです。このBLRは分解能を決定づける要因の一つで有り、もっとも難しい処理ともいえます。これといった決定版のアルゴリズムが公開されているわけではないので、どのようなアルゴリズムを使われているかはメーカー独自になります。

 漸化式は数値計算ですので劣化は起きませんから、A/D変換の精度とBLRのアルゴリズムがDSPの性能を決める大きな要因になります。

 DSPにつきましては様々な特徴があり今後も紹介していこうと思いますが、今回はここまで。

 それでは、より良い製品が作れるように社員一同全力で頑張ります。応援の程どうぞよろしくお願いします。

References
[1] E.Kowalski, Nuclear Electronics, 朝倉書店, 1971年
[2] V.T. Jordanov and G.F. Knoll, Nucl Instr. and Meth.A353(1994)261-264


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Last Update 2024/4/16