今回は波形をデジタル化して解析するデジタルパルスプロセッサ(Digital Pulse Processor、DPP)について紹介します。
波形とひとえに言っても、種類はTTLのようなロジック波形や、放射線検出器のようなパルス波形まで様々です。波形の幅も数ms、数μs、さらには数nsあります。デジタルパルスプロセッサは特に放射線検出器、特にシンチレーション検出器のような数100ns~数nsの高速のパルス波形の解析にマッチしています。
このレポートでは弊社の数あるデジタルパルスプロセッサ製品の中で1Gsps、14bitのADCを搭載したAPV8104-14を使用していきます。
信号入力からデジタルパルスプロセッサ処理について簡単に説明し今回はQDC(Charge Digital Converter)について解説していきます。
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入力した波形は50Ωの入力インピーダンスで受けます。高速増幅回路によるゲインやアッテネータで波形の大きさを整えて、ADCでデジタル化をします。
デジタル化された波形は、FPGA内でデジタル信号処理がなされ、、エネルギー情報(QDC)、時間情報(TDC)、波形弁別情報(PSD)など得ることができます。得られた情報は様々な物理計測実験に役立ちます。
FPGAの中でも特に信号処理部をもう少し詳しく見てみます。信号処理内部では、信号処理の開始起点であるThresholdディスクリモジュール、高精度な時間情報を得るCFDモジュール、エネルギー情報を得るQDCモジュール、波形弁別情報を得るPSDモジュールなどに分かれています。
各々のモジュールがFPGA特有の並列演算されパイプライン処理し計算結果が出てきます。パイルプライン処理しているため一定の遅延は発生しますが、デットタイムが非常に少なく高計数の信号入力でも対応できます。
各モジュールへ設定できるパラメータは次の通りです。
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付属のアプリケーションから細かく設定できるので調整しろが大きいです。従来のアナログ方式とは違い微調整がパソコン上で簡単にできます。デジタル式の大きなメリットの一つです。
実際にテクノエーピー製の1inchのLaBr3(Ce)検出器XL100とデジタルパルスプロセッサAPV8104を使用して計測をしてみます。線源にはCs-137とCo-60コイン線源を使用します。高圧電源にはテクノエーピー製のAPV3304を使用しています。
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右側にある1inchのLaBr3検出器は、シンチレータと光電子増倍管(PMT:photomultiplier tube)、ディバイダ―回路が一体になったものです。
LaBr3シンチレータの特性である早いdecayを生かせるように、PMTのアノード出力をダイレクトに出力しています。アノードのダイレクト信号をデジタルパルスプロセッサAPV8104に直に接続します。とてもシンプルな計測系です。
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デジタルパルスプロセッサの計測のモードは主に3つあります。waveモード、histモード、listモードです。waveモードで波形を確認し、
histモードでエネルギースペクトルを取得する順序となります。
waveモードではADCによりデジタル化された生の波形とCFDモジュールにより整形されたCFD波形を確認することができます。ソフトで確認できる簡便なオシロスコープです。
下図はアプリケーションで見るwaveモードの出力結果です。
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黒波形はADCされた生の波形、赤波形はCFD形成された波形です。LaBr3の波形幅はX軸から読み取るとおおよそ100ns程度と比較的速いことが見て取れます。
1GHzサンプリングなので1点あたり1nsの分解能です。Waveモードではノイズや波形幅や形状などの様々な情報を得ることができます。
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次にhistモードでエネルギースペクトルを取得してみます。PMTは光を電子に変換し増幅したのち最終段アノードへ到達します。
アノードの信号はデジタルパルスプロセッサの50Ω入力インピーダンスで受けるので電子が通過し電位差が生まれます。エネルギー情報はこの電位差を単純に足し合わせることで取得できます。足し合わせの時間は、パラメータのIntegral range(積分時間)に相当します。
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Integral rangeのイメージは次の通りです。
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Thresholdを起点に積分を開始します。波形の全体を覆うように余裕を持った時間を設定します。
waveモードで確認した時は100ns以上必要なことがわかりましたので、今回は144nsと少し長めに設定しました。
しかし、threshold時点ではすでに波形が立ち上がっています。本来はそれよりも前の時間から積分が必要です。前の時間の積分開始点はpre-triggerによって設定します。pre-triggerイメージ図は次の通りです。
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LaBr3検出器の場合は、立ち上がりが早いので-8nsの設定で十分です。
得られた積分値は最終的にfull scale倍しエネルギースペクトルに反映されます。
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エネルギー値が信号処理されるまでの一連の計算は次の通りです。
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エネルギースペクトルを計測すると、
低エネルギー側に大きくピークが出てしまいました。ノイズに対してthresholdを引っかけているかもしれません。
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もう一度waveモードで波形を確認します。今のthresholdは5digitに設定していましたので、
waveタブthrehold設定箇所に同じく5digitを入力し計測してみます。すると確かにノイズが多数かかってしまっていることがわかりました。
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ノイズの上端は8digit程度でしょうか。ノイズの上端+αのthreshold値に設定にします。
今回の環境ではthresholdは15digitに設定しました。再度、エネルギースペクトルを取得します。
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今度は低エネルギー側のノイズピークが無くなり、きれいなエネルギースペクトルが得られました。662keV@Cs137エネルギー分解能は3.18%と結果が出ました。計測系はシンプルな構成ですが、素晴らしいエネルギー分解能です。
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せっかくなのでテクノエーピー製の1inchのNaI検出器を使ったエネルギースペクトルも計測してみます。この検出器もアノードをダイレクト出力している特製の検出器です。
まずはwaveモードで波形を確認します。
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波形幅は立ち下がるまでおおよそ800nsでした。やはり少し長いです。Integral rangeは1000nsと設定しました。エネルギースペクトルを取得していみます。
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 662keV@Cs137エネルギー分解能は7.03%でした。まずまずでしょうか。
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このようにデジタルパルスプロセッサは準備から計測結果が出るまでほんの数十分でできてしまう、便利なモジュールです。是非一度お試しいただければと思います。
次回は“デジタルパルスプロセッサを使用した時間差スペクトルの取得(TDC)“についてレポートします。
それでは、より良い製品が作れるように社員一同全力で頑張ります。応援の程どうぞよろしくお願いします。
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